「南禅寺の決戦」阪田三吉の二手目9四歩

f:id:watchboy24:20170823182641j:plain

 出典wikipedia

 大阪、新世界、通天閣の下にはある伝説の棋士を称えて「王将碑」が置かれている。


自ら大阪名人を名乗った反逆孤高の棋士、その伝説の棋士の名前は「阪田三吉」


今回はその阪田三吉の「南禅寺の決戦の端歩突き」の伝説を紹介したいと思います。

 まずは軽く阪田三吉の紹介をします。


1871年生まれ


家が貧しく、幼い頃から丁稚奉公をしていたため文字を知らず、生涯覚えた漢字は「三」「吉」「馬」の三字だったようで、そのためか苗字には「阪田」と「坂田」の二種類の表記が混在しているようです。


賭け将棋で鍛えたその実力は本物で、死後、日本将棋連盟から名人・王将の称号が贈られました。


北条秀司原作による「王将」というタイトルの戯曲や映画、さらに歌のモデルになったことでも有名で、当時も関西を中心に相当の人気があったことがうかがえます。

 

 

さて、さかのぼること、時は1937年


将棋界としては世襲制名人から実力制名人へと移行した大きな転機とも呼べる年でした。


初代実力制名人を決める第1期の名人決定リーグ戦が行われていたさなか、読売新聞社主催で特別対局が行われることとなりました。


その対局者が「阪田三吉」と当時名人最有力候補の「木村義雄」でした。


当時の阪田三吉は自称「大阪名人」を名乗っていたことから、東京将棋連盟から名人僭称とみなされ、連盟と冷戦関係にあり16年間も将棋を指していなかったようです。

 


「あの伝説の棋士がまた将棋を指す」

「あの男が帰ってきた」

 


伝説の棋士「阪田三吉」のカムバックを読売新聞社は大々的に報じ、世間の注目はこの「事実上の名人戦」に一気に集まります。


この時、阪田三吉は66歳、対する木村義雄は32歳


ちなみにこの二人は過去に対戦したことがあります。


それは木村義雄がまだ12歳の時、阪田の飛車落ちで二局指し、1勝1負


この時木村は少年ながら「なんて強い人なのだろう」と思ったそうです。


それから20年…


対局が行われた舞台が南禅寺だったこともあり、この対局は「南禅寺の決戦」と呼ばれ、のちに阪田の孫弟子に当たる内藤國雄はこの南禅寺の決戦を「三百七十年に及ぶ将棋の歴史の中で、最大の一番」と称しています。


そしてこの南禅寺の決戦は持ち時間両者30時間(全日程7日間)という今では考えられないような長丁場での対局ルールでした。


先手木村義雄の初手7六歩で始まったこの将棋、阪田は二手目に伝説となって語り継がれる一手を指します。

 


「9四歩」

 

 

f:id:watchboy24:20170823182521p:plain

 

図のように一番端の歩を前進させたこの一手


この手の意味の捉え方は色々ありますが、普通に考えるとこの手の意味は「一手パス」


将棋とはどちらが早く相手の王様を詰ますか「速さを競う」ゲームです。


そしてこの事実上の名人戦とも呼ばれている大一番で後手番にも関わらず坂田三吉は二手目に端歩を突いたのです。


この常識外の一手に対局者も観戦者も誰もが驚きます。

 


「なぜ坂田は二手目に9四歩なのか?」

「この手はなんだろう?」

 

 
また、この手は関西の棋界を背負っていた阪田の、東京への反骨精神の表れとも見られています。


つまり挑発との見方もあります。

 


「一手パスしてやるからかかってこい若造」

「俺は初手端歩突きでも勝てる」

 


こんな感じでしょうか?

 

 

しかし南禅寺の決戦を制したのは木村義雄でした。


そして翌月、もう一番、読売新聞社により予定されていたのが「天竜寺の決戦」でした。


これは木村義雄に次ぐ名人候補の「花田長太郎」との対局で、この対局でも阪田三吉は後手番で二手目に端歩(1四歩)を突いています


結果は169手で花田勝ちとなっています。

 

 
後日、阪田は弟子からのこの端歩突きについて聞かれた時にこう答えています

 


「今にわかる」

 


この言葉から読み取れることは「この手には意味がある」ということでしょう。


なので挑発ではなく、阪田三吉は本気で二手目に端歩突いたことになります。

 

  

そして南禅寺の決戦から約80年経った現在…


最近では端歩が認知され、序盤の早い段階で端歩を突くプロの将棋を見ることも珍しくありません。


当時は理解されなかった端歩の意味が、何十年も経過してから理解されつつある。


南禅寺の決戦で阪田三吉の指したこの9四歩は間違いなく伝説の一手として今後も語り継がれていくことでしょう。

 

 

 

9四歩の謎―孤高の棋士・坂田三吉伝

9四歩の謎―孤高の棋士・坂田三吉伝

 
阪田三吉名局集 (1979年)

阪田三吉名局集 (1979年)

 
棋神・阪田三吉 (小学館文庫)

棋神・阪田三吉 (小学館文庫)

 
王将 [DVD]

王将 [DVD]